2009年11月9日月曜日

映画『THIS IS IT』

映画とは時に残酷なもので有る。

さっきまでおっぱいぽろ~んとして「おおっ」と思わせた女が数分後には血まみれで死んでたり、もう駄目と思って自らの手で子供を殺してしまった後に救いが来たりする。そんなひどい物を見せられながら、作者がそこで訴えたいのはこの世の矛盾や生への渇望だったりするんだろう(たぶん)。

で、この「THIS IS IT」は何かと言ったら、この映画の主人公が最後に死んでしまうということがあらかじめ分かっている「映画」である。

リハーサルシーンの中でこのコンサートに参加することが出来たダンサーやミュージシャンやスタッフ達がコンサートのために、この映画の主人公のために、切磋琢磨し、厳しそうなスケジュールの中でどうにかあと数日後のコンサートを成功させようとする。なぜならそれを成功させることが彼らの「夢」であるから。

そして、映画館の人間もまるでエレファントマンを見るような目でみていた「整形だらけの奇人変人」が実は本当にピュアなエンターテイナーであり、信念を持った「ひとりの男」であることに心が動かされていく。「ただの」リハーサルを見ながら、それを自分の頭の中で変換させて完成したコンサートを思い描く。それがファンタジーというものだ。

しかし、みんな知ってる。それは現実にはならない。なぜなら主人公が死んでしまうから。

思い描いていた完成形のステージは2度見ることが出来ない。それどころかちょっと好きになってきたこの映画の主人公にもう2度と触れることは無い。彼から何かが届くことはもう無い。

映画の中に出てくる人たちが明るく希望に満ちた未来を信じれば信じるるほど、あなたの心が主人公の男に心をつかまれればつかまれるほど、時間は経ち、残酷な、そして最初から分かっているエンディングへと向かっていく。あと60分、あと30分、15分、10分・・・・映画が終わったらこのファンタジーも終わりだ。

映画は最後、主人公の葬儀が行われる訳でもなく、まだ何も起こっていない状態のまま終わる。そして、僕らは取り残される。大きな「喪失感」だけを残して。

そういう意味でこれはドキュメンタリーというより「映画」だ。劇場で見るべき。